大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)2520号 判決 1988年9月27日
大阪市東淀川区小松一丁目一五番一八号
控訴人
東洋製鉄株式会社
右代表者代表取締役
音頭直次
右訴訟代理人弁護士
大槻龍馬
同
谷村和治
同
平田友三
東京都千代田区霞ガ関一丁目一番一号
(送達場所 大阪市東区谷町二丁目三一番地大阪第二法務合同庁舎 大阪法務局訟務部)
被控訴人
国
右代表者法務大臣
林田悠紀夫
右指定代理人
佐藤明
同
高木国博
同
武田正徳
同
木戸久司
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 申立
1 控訴人
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人は、控訴人に対し、六九八万九四一一円及びこれに対する昭和五〇年三月一一日から支払ずみまで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。
(三)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
二 主張
次に付加、訂正などするほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三枚目一一行目の「起訴された」の次に「(以下、この事件を『別件刑事事件』ともいう。)」を、一二行目の「原告は」の次に「同年九月一日の第一回公判期日において、公訴事実に対する認否として、本件事業年度の所得金額及びこれに対する法人税額、秘匿所得金額、逋脱税額を争う旨主張するとともに」を各加える。
2 同三枚目裏三、四行目の「有罪判決」の次に「以下、この判決を『別件刑事事件判決』ともいう。)」を加える。
3 同五枚目裏一一行目の「課税手続」の前に「(一)」を加え、同六枚目表七行目と八行目の間に次のとおり挿入する。「(二)したがつて、刑事判決によつて認定された犯則所得金額と課税手続上確定された課税所得金額が異なることがあつても、やむを得ないものであるから、本件において、別件刑事判決が控訴人主張のように犯則所得金額を認定したからといつて、控訴人のした修正申告における所得金額のうち右認定額を超える部分が過大であると推認することはできない。」
4 同六枚目裏九行目の「参照)。」の次に以下のとおり加える。
「現行法制度上、民事訴訟と刑事訴訟とは完全に分離されており、時効中断事由である『裁判上の請求』とは、民事上の訴訟(これを拡張するとしても、当事者訴訟や課税処分取消訴訟といつた民事訴訟に類似した性質を持つ一部の行政訴訟に限られる。)における権利主張をいうから、刑事訴訟における犯罪不成立・刑罰権不存在の主張をもつて時効中断事由である『裁判上の請求』と解する余地はない。また、控訴人のした更正の請求は、法定の時効中断事由にあたらないうえ、右消滅時効完成後になされたものであるから、これによつて時効が中断することもあり得ない。」
5 同七枚目裏一〇行目の「認める。」を「(一)は認めるが、(二)は争う。」と訂正し、一二行目の「趣旨ではない」を次のとおり訂正する。
「趣旨ではないから、刑事判決により異なつた所得金額が認定された場合には、そのことを理由として不当利得返還請求権を行使できると解すべきである。」
6 同八枚目表四行目の「要請される。」の次に以下のとおり加える。
「控訴人は、別件刑事事件において、公訴事実記載の法人税額の一部が租税債務として存在しないものであること及びその具体的金額について争つたものの、控訴人が租税債務の一部が存在しないことを確実な裏付によつて認識することができるようになつたのは、その旨を判示した別件刑事判決が確定した時点であるから、その時点に至つて初めて、法律上還付請求権を行使することが可能になつたものである。したがつて、本件における控訴人の還付請求権の消滅時効の起算日は、別件刑事判決の確定時である昭和五六年一月二七日とすべきである。」
7 同八枚目表四行目と五行目の間に次のとおり挿入し、五行目の「(三)」を「(四)」と訂正する。
「(三)(1) 控訴人は、前記のとおり、別件刑事事件における第一回公判期日(昭和五〇年九月一日)において、公訴事実に対する認否として、本件事業年度の所得金額及びこれに対する法人税額、秘匿所得金額、逋脱税額を争う旨答弁することにより国家の租税徴収権の一部不存在を主張するとともに、過誤納金の返還を求める意思表示をしたものであるところ、このような答弁(及び意思表示)は、債務の不存在確認を求める民事訴訟や納税者を原告とする課税処分取消訴訟において被告が請求棄却の判決を求めた場合に準じて、民法一四九条の『裁判上の請求』に当たると認められるべきである。したがつて、控訴人の右答弁により、本件過誤納金の返還請求権の時効は中断されたものである。
(2) また、控訴人は、別件刑事事件判決の確定後、それを根拠に更正の請求・異議申立・審査請求・抗告訴訟の提起など税法の規定に基づく過誤納是正の手段を尽くしたが、これが認められなかつたためにやむなく本訴を提起したものであるから、控訴人のした右更正の請求によつても消滅時効は中断されたというべきである。」
三 証拠
原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加、挿入するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決八枚目裏末行の「起訴され」の次に以下のとおり加える。
「、同年九月一日の第一回公判期日において、公訴事実に対する認否として、本件事業年度の所得金額及びこれに対する法人税額、秘匿所得金額、逋脱税額を争う旨主張するとともに」
2 同一〇枚目表五行目の「理由はない。」の次に以下のとおり加える。
「租税債務の一部が存在しない旨を判示する刑事判決の確定前に確信をもつて過誤納金の還付請求をすることは必ずしも容易ではないとしても、そのことは、還付請求権を行使するについての法律上の障害ではなく事実上の障害にすぎないから、本件における控訴人の還付請求権の消滅時効の起算日を別件刑事判決の確定時とすべきであるとする控訴人の主張は採用できない。」
3 同一〇枚目表一二行目と末行の間に次のとおり挿入する。
「控訴人は、別件刑事事件において控訴人のした公訴事実に対する認否における法人税額等を争う旨の答弁が民法一四九条所定の『裁判上の請求』にあたるとし、これにより、控訴人の還付請求権の消滅時効は中断されたと主張するが、同条にいう『裁判上の請求』とは、それが民事上の権利の時効中断の効果を生ずるものである以上、時効によつて消滅すべき権利を民事訴訟手続においてその相手方に対して主張することをいうものと解すべきであり、現行法制度上、民事訴訟とはその目的と手続を異にする刑事訴訟における権利主張をもつて『裁判上の請求』にあたるとする余地はないというべきである。のみならず、控訴人が別件刑事事件の第一回公判期日においてした公訴事実に対する陳述は、検察官の主張する所得金額等を否認する趣旨のものであるにとどまることが明らかであつて、この陳述により控訴人が本件過誤納金の還付請求権を行使したものとは到底解することができない。したがつて、いずれにせよ、この点に関する控訴人の主張は採用することができないといわなければならない。
また、控訴人は、控訴人のした更正の請求によつても時効が中断されたと主張するが、更正の請求は法定の時効中断事由にあたらないうえ、控訴人が更正の請求をしたのは、右の消滅時効が完成した後である昭和五六年三月一七日のことであるから、これによつて還付請求権の消滅時効が中断することはあり得ず、右の主張はそれ自体失当というべきである。
4 同一〇枚目裏四行目の「ともかく」の次に以下のとおり加える。
「、本件の修正申告が査察官の詐欺、強迫によるものであるとの控訴人の主張に沿うかの如き成立に争いのない甲第七号証の供述記載部分、原審における控訴人代表者尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第六号証の記載はにわかに採用できないし、他にこれを認めるに足りる証拠もない上」
二 よつて、原判決は相当であるから民訴法三八四条により本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 栗山忍 裁判官 藤原弘道 裁判官 山口幸雄)